社会学への招待
現代社会の様々な出来事は、思いがけないところで私たちの社会生活に変化をもたらしています。変わりゆく企業組織と家族関係の揺ら ぎ、新しい宗教現象と若者文化、外国人労働者の増加と地域社会、多様化するライフスタイルとメディア、例を挙げればきりがありません。経済、政治、文化、 技術など一見ばらばらのように見える社会の各領域も、実は相互に深く関係し合っており、そうした複雑な仕組みに眼を向けることなしには、現代社会を理解す ることはできません。
社会学は、こうした社会の各領域の成り立ちやそこに発生する問題を、特に私たちの日常生活のレベルから解明すると共に、さらに異な る領域の間に広がる見えない関係の連鎖を、人間や組織・集団の観点から自由に明らかにすることを、課題としています。
本学の社会学主専攻では、主として社会問題論(国際移動・犯罪・労働・ジェンダー・社会階層)、文化社会論(若者・スポーツ・メディア・知識・歴史)、公共政策論(医療・福祉・教育・科学・都市・家族)を専門とするスタッフが様々な学生の関心に 対応した社会学の「フィールド」を整備しています(「卒論タイトル抜粋」を見てみて下さい)。皆さんも、私たちが用意したこのフィールドで自由に駆けまわってみませんか?
教育方針と特色
社会学主専攻の科目は、社会学の基礎的な概念や理論を学ぶ社会理論、データを収集し分析するための方法を学ぶ社会調査・社会データ分析、そして家族や地域、産業、福祉、メディアなど個別分野についての社会学に大きく分けることができます。本主専攻では、単に社会理論を教育するだけでなく、現代社会のさまざまな問題に対して自ら頭と足で取り組む能力を養成するため、社会学研究法および社会学演習(ゼミナール)と社会調査実習を開設しています。また国際的な視野から日本社会を学ぶことも重視しています。学生は、こうした学習の成果をまとめる機会として、卒業論文に取り組むことになっています。
将来の方向と進路
マスコミ・製造業・金融業・調査研究機関・サービス業などの民間企業や公務員など、きわめて多様な分野へと卒業生は就職しています。また、希望を生かして教員になるケースもあります。さらに、人文社会科学研究群(国際公共政策学位プログラム社会学分野)をはじめとする大学院に進学することにより、より専門的な研究を続ける道も開かれています。
教員紹介
五十嵐 泰正(いがらし やすまさ)
「都市社会学」「地域社会学」「社会学演習Ⅳ」「社会学研究法A」【都市社会学/地域社会学】
「大学の中に引きこもっている社会学者に、社会の何がわかるんだ」ごもっとも。否定はしません。「社会は社会に出てから肌で覚えるから、社会学なんていらないよ!」それはどうかな?「社会」には、たくさんの<社会>があります。油の匂いの漂う工場にも、深夜のファミレスにも。図書館でちょっと時代を遡れば想像もつかない<社会>があるし、海を渡ればちっぽけな予測を軽く裏切る<社会>が待っています。そうそう、大学もひとつの<社会>です。「社会人」になってから、安易に「社会」がわかった気になって失敗しないために、さまざまな<社会>にまみれながら、いくつもの<社会>の成り立ちを自分の頭で考えておく。それが社会学主専攻で過ごす大学生活です。
ウラノ・エジソン(うらの えじそん)
TISS Program:Sociology of Contemporary Japan, Sociology of Migration, Public Policy, Transnational Social Policy
「社会学演習Ⅷ」など【国際社会学/国際社会政策】
移住労働者の増加や企業の国際展開などにより、国家を単位とした公共政策が社会保障、雇用、所得再分配などのニーズに応えられなくなってきています。こうした「矛盾」を念頭におきながら、社会政策のグローバルな枠組みについて一緒に考えましょう。
加島 卓(かしま たかし)
「社会学基 礎 論」「メディアと情報化の社会学」「歴史社会学」「社会学演習」【メディアの社会学/デザインの社会学/質的調査】
社会学を学ぶ面白さは、偶然性を考える点にあります。たとえば、入念に準備をしても上手くいかない場合や、逆に準備をあまりしていないのに上手くいく場合があります。またみんなで一生懸命に取り組んでも、誰もが望まない方向へ事態が展開することもあります。社会はこうした偶然性にあふれており、こうした偶然性がいかにして可能になっているのかを考察するのが社会学です。メディアやコミュニケーションをめぐる「なんでこうなっちゃうの?」を丁寧に考える。そんな社会学をみなさんと目指します。
葛山 泰央(かつらやま やすお)
「知識社会学」「現代社会学の系譜」「社会調査実習」「社会学研究法B」【言説分析/知識社会学/フランス政治哲学】
社会学という学問的な営みを特徴付けているのは、さまざまな社会(的事象)をその内部から観察することの二重性、つまりは「社会への視線」と「社会からの視線」とが互いに織り成す、ある種の往復運動にほかなりません。その意味で、社会学とは、近代社会の自己観察の営みであるともいえます。私たちの生きる社会への、私たちの生きる社会から向けられる、こうした視線のダイナミズムを、あなたもぜひ一度体験してみませんか。
鈴木 彩加(すずき あやか)
「ジェンダー社会論」「社会学演習」【ジェンダー論/社会運動論/家族社会学】
女をばなぞ軽しむる女より生れぬ人のあらじと思ふに—この歌は今から100年以上も前、女性に参政権がなく、教育を受ける機会も限られていた時代に、茅野雅子という歌人が詠んだものです。ここで鋭く提起されている問いに、みなさんならどのように答えるでしょうか。現代においてもなお、社会には性別を理由とした様々な格差や不平等が存在し続けています。それらを研究するのが、ジェンダー論という学問です。授業ではジェンダーというレンズをとおして社会をみつめ、考える力・表現する力を身につけていきます。
土井 隆義(どい たかよし)
「逸脱行動論」「社会統制論」「社会学演習Ⅶ」【犯罪社会学/法社会学/逸脱行動論/社会問題論】
社会生活における様々な病理現象を素材に、社会学的なものの見方について考える授業を行なっています。社会学というパースペクティブから様々な病理現象をながめると、社会と私たちとの関りについて、いままで気づかなかった意外な側面が見えてきます。私たちの生きている世界は、けっして一枚の織物ではありません。様々に織り重なった意味の層を探検してみると、重大な社会問題と思われるものが、じつは別の側面で現代社会のシステムを支えていたり、あるいは逆に、望ましいと思われていた理念が、その裏側では病理現象を招いていたりすることが分かってきます。社会病理に対する道徳的な判断も一つの偏見でしかないかもしれないのです。授業をとおして、社会病理をめぐる従来の常識を突き崩す面白さを味わうとともに、社会の中で私たちが生きていく意味についてもぜひ考えて下さい。
三品 拓人(みしな たくと)
「福祉社会学」【福祉社会学/家族社会学/子ども社会学】
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」有名な冒頭からはじまるこの物語は、社会学という学問に通じているように感じます。最近では、昔よく遊んでいた広場に新しい家が建ち、何度も通ったお店は閉店し、親戚で集まる機会はわずかになりました。そういった身の回りの些細な変化について、寂しいとも仕方がないとも思います。時間は常に前進し、社会にも私たち個人にも、何かしら変化が生じます。ひとりの人生においても―子どもの頃、大人になってから、あるいはもっと年を重ねていく過程で―様々な「困りごと」に直面することがあります。それは個人的な悩みかもしれませんが、同時に社会問題かもしれません。社会学では、人々の行為や生き方、そこに付随する問題を「理解」することが重要になります。それは時代や国、地域によっても、もっと細かい様々な社会的要因によっても異なります。そんな社会学を専攻してきた私も気づけばもう「学生」ではなくなり、お世話になった指導教員はすでに退官しました。ただ、社会学を学ぶ過程で、自分自身の物の見方や感じ方に変化が生じたことを今でもはっきりと覚えています。学生生活も「春の夢」のように儚く、振り返れば「花の色」のように束の間かもしれませんが、それぞれの〈社会〉の中で他者と関与する生活はその後もずっと、ずっと続くことでしょう。筑波大学のチャイムの音と共に、諸行無常な社会について一緒に学びませんか。
目黒 茜(めぐろ あかね)
「科学社会学」「社会学基礎論」「社会学演習」【科学社会学/歴史社会学/専門職論】
社会学を学ぶ醍醐味は、当たり前を疑ってみることや社会問題への関心を深めることなどもありますが、何よりも他者への想像力を高めていくことにあると思います。現代社会に生きる私たちは、社会の変容のなかで個人化というものを経験しているといわれていますが、いくら個人化が進んだとしても、人はひとりで生きていけるわけではありません。人間と人間の関係性があるからこそ社会があり、自由や平等、連帯を目指してきた近現代社会の歴史は、今を生きる私たちにもさまざまなことを教えてくれます。他者への想像力を高めていった先にみえるものを、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
森 直人(もり なおと)
「社会階層論」「労働社会学」「社会学演習Ⅸ」【社会階層論/教育-福祉の社会学/歴史社会学】
学生時代の私は、教育と格差・不平等の世代間連鎖の問題を考えるところから社会学の世界に入りました。
講義のなかで示される「通説」に納得できない違和感を何とか言葉にして、授業が終わったあとの教壇にいた教師に話した覚えがあります。教師の答えは、「その問題はじつはまだ十分よくわかっていないのですよ、ぜひあなた自身で明らかにしてください」というものでした。不思議な解放感とともに、「これが大学か」という思いを抱いた最初の記憶です。すでに明らかにされていることを鵜呑みにするのではなく、新しい疑問を見出し、答えを模索する。その自由を、学生のみなさんとともに体感していきたいと思います。
演習テーマ・卒業論文タイトル抜粋(令和5年度)
- 境界に位置する難聴者はなぜ顕在化しないのか:パッシング行為の再考を通して
- 日常的な「発達障害」カテゴリー適用の実践過程
- 「男性相談」の社会学
- 新潟県長岡市山古志地域における地域づくりのあり方
- 医療事故において患者側はいかに「納得」するか
- 家庭での教育投資は私学文化の基盤となりうるか
- ロックはなぜ女性を無視してきたのか
- 腐女子はなぜ腐女子であることを自重するのか
- シニア層にとってのファッション