法学への招待

現代社会の複雑多岐な社会生活は、様々な法律や制度によって運営されており、人としてそこに生きる以上、好むと好まざるとを問わず法にかかわらざるを得ません。新聞を開いてみれば、個人のプライバシーとマスコミの取材の自由の問題、少年犯罪、児童虐待の増加等、「法的」な問題を毎日のように目にします。また、グローバル化の進展にともなって、外国企業の合併や吸収、国際貢献など、外国とのあいだで法的な解決を迫られる場面も増えています。法というと、一見、日進月歩の科学技術とは異なり、固い、旧態依然というイメージがあるかも知れませんが、決してそのようなことはありません。証券取引の規制、ソフトウェアやバイオテクノロジーの保護や規制、ネット社会特有の諸問題への対応等、新たな法現象が生じてきたこともあって、情報化・グローバル化の今日、法学には、時代の変化に柔軟に対応することが求められているのです。

教育方針と特色

法学主専攻では、ひろく法にかかわる基礎的な理論・システムの把握を教育の中心においており、そうした教育を通じて、幅広い法的なものの見方、考え方を養うことを主眼としています。基本的な実定法を通じて、現実の法体系を学ぶことで、長い歴史のなかで培われた人間の叡知の豊かさを理解し、その社会的役割を適正に評価することができるようになります。 

法学主専攻のカリキュラムは、様々な実定法から、政治学・経済学・社会学・人文関係系統にいたるまで、幅広いものを含んでいますが、そうした科目の学習を通じて得られる、社会生活全体を広い視野で考察する適切妥当な観点と判断力が、まさに法的なものの見方、考え方の現れなのです。様々な法分野の講義から、少人数形式のゼミナールや、卒業論文執筆(任意)にいたるまで、法的議論の「場」は多々用意されています。

将来の方向と進路

卒業生の就職先は企業・団体など多岐にわたり、国内外で広く活躍しています。また、法科大学院や政策大学院に進学した後、弁護士や国家公務員として活躍している卒業生や、研究大学院に進学し、研究者として活躍している卒業生もいます。本学大学院では、人文社会科学研究群の国際公共政策学位プログラム、国際日本研究学位プログラムで法に関する学びを深めることができます。

 

教員紹介

秋山 肇(あきやま はじめ)
「憲法I」「憲法II」「比較憲法」「憲法演習I」「憲法演習II」【憲法/国際法/国際政治/平和研究】

グローバル化が進む今日において、私たちが抱える問題は、より一層複雑化し、多様な視点から理解・分析・解決策の模索を行う必要があります。社会学類は、問題を多面的に捉え、その解決策を考えたい方にぴったりの学びの場です。例えば、法や憲法が解決できる問題がある一方で、社会学、政治学、経済学など様々な学問領域を駆使することで、法の限界を克服し、より良い解決策を導くことが可能になることもあります。素晴らしい仲間(=学生、教職員)とともに、国内外の幅広い問題について多角的かつ批判的に議論し、日本の、そして世界の未来を創っていきませんか?
IMAGINE THE FUTURE together!

オルトラーニ アンドレア(おるとらーに あんどれあ)
「Japanese Law I, II」「Comparative Law I, II」「 I n t e r n a t i o n a l Corporate Law」「Seminar(contract law)」(社会国際学教育プログラムTISS)【比較法、日本法】

法律以外の「法」とは何か。比較法、社会的規範に焦点を。全ての社会には、法律、習慣、社会的規範、その他多くのルールの複雑な体系があります。伝統的に、法学は実定法の分析に焦点を当てていますが、私は、法を単なる成文法の集合体ではなく、複雑な社会現象として捉え、法律と社会や、公式と非公式なルールの間の相互作用にも焦点を当てます。さらに、私のアプローチは比較的です。文化が法律や社会的規範などに与える影響を理解するために、いくつかの法体系を考慮に入れています。

木山 幸輔(きやま こうすけ)
「法哲学」「法哲学演習I」「法哲学演習II」【道徳・政治・法哲学/公共哲学】

「法学」って、とっても「堅そう」ですね。噛むと歯が折れちゃいそう。だから、柔らかくアプローチしてみるのが良さそうです。本学にはそのきっかけや場所が多くあるはずです。大事な柔らかさは、対話の中で、自分の考えを生成・変化させていく、そういう態度です。哲学的に考えてみたり、分野横断的に本や友達、教員と対話したり、サークル、バイト、生活の中で考えていく。そうした中で、「私が考えたいのはこれだ。で、こういう風に考えられるかな(ただし暫定的)」という答えを見つけられるかもしれません。美味しく咀嚼できたときの歓びは保証します(こんなの食べていていいのかな、と思うかもしれませんが)。皆さんと充実した時間を過ごせますように。

蔡 芸琦(サイ ユンチ)
「刑法総論」「刑法各論」【刑事実体法】

刑法199 条によれば、「人を殺した」者は、殺人罪に問われます。たとえば、ナイフで人の心臓を刺す行為は、「人を殺す」行為にあたると考えられます。では、ある飛行機には時限爆弾が仕込まれていることを知りつつ、その飛行機の搭乗を勧める行為は、「人を殺す」行為にあたるのでしょうか。 不注意で車を他人に衝突させ、人に重傷を負わせたにもかかわらず現場から逃走する行為は、「人を殺す」行為にあたるのでしょうか。 言葉には、たくさんの解釈の可能性があります。法の解釈の楽しさを実感できる分野の1つが、刑法学です。

周 筱(シュウ シュウ)
「刑法総論」「刑法各論」【刑事実体法】

「法とは何か」と問われた時、あなたは何を最初に思い浮かべますか?法令でしょうか、それとも法廷でしょうか。「法は犯罪者を守る」と聞いたら、どう感じますか。あり得ないと思いますか、それとも不条理だと思いますか?実は、「犯罪者の人権を守る法律」が身近に常に存在しています。それは刑事訴訟法です。刑事訴訟法の目的は、真実を究明することだけではありません。被疑者や被告人、そして一般市民の人権を保護しつつ、公正な手続きを確実にすることにも重点を置いています。これは、国家による強大な権力を行使する刑事手続が個人の権利や利益を過度に侵害することを防ぐためです。「法」とは国家権力によってのみ定義されるものではなく、私たちは日常生活の中で行動するさいのあらゆるルール(「作法」)も含まれています。この「作法」が国家権力の基盤となり、「法」としての国家権力は、人々の生活の「作法」を尊重しなければなりません。そこで、さまざまな「法」の次元のバランスをどのように取るかが、刑事訴訟法を学ぶ面白さだと思います。

星野 豊(ほしの ゆたか)
「契約」「債権総論」「信託法」【民法/信託法/金融法】

少なくとも学群生である間は、主専攻とする分野や将来の希望職種にとらわれることなく、幅広く学び、自由に考えることを心がけてください。興味を持つ対象が社会科学の範囲を超えて、他の領域に及んでいくことも、全く差し支えないと思います。逆に言えば、「自分はこの分野を専門としている」ということが、「他の分野のことは分からないし関心もない」ということにならないように、十分注意してください。

宮坂 渉(みやさか わたる)
「民法総則」「物権」「法制史」「比較法」「法交渉学」「introduction to law」「L a w a n d Society in Japan」【民法/ローマ法/西洋法制史】

法を学ぶ、法学って何だろう?
法と聞いて、みなさんがイメージするのは?早口でまくしたてる弁護士?通販好きでイケメンの検察官?それとも市民が持ち込む無理難題に頭を抱える公務員?そうだとすると、法学は、法曹(弁護士、検察官、裁判官)、公務員になるための勉強?それも大事、でもそれだけじゃない。
そもそも、法を学ぶ、の法って何か、考えてみよう。なぜ法曹や公務員になるために法を学ぶ?それは、彼らが法に従って、法を使って、仕事をするから。彼らの仕事ってなんだろう?それは、人々の困りごと(トラブル、紛争)を解決すること。例えば、借金を返したが余計に払った利息を取り返したい人に代わってお金を取り返すことで、子供を預けないと仕事ができない人に保育所を提供することで。
解決の仕方は法を使うことだけ?いや、話し合いや、誰か偉い人や怖い人(!)の言うことに従う、という仕方もある。では、なぜ法を使う必要がある?それは、法には強制力があるから。話し合いで決まったことや、誰かの言ったことに従わなくても、仲間やその人に嫌われるだけかもしれない。でも、法に従わなければ、罰や不利益を受けることになる。
なぜ法には強制力がある?それは、木庭顕先生曰く、法は「追い詰められた最後の一人」を守るためにあるから(木庭顕『誰のために法は生まれた』朝日出版社、2018 年)。例えば、虐待を受けても助けを求めることができない子供たち、冤罪事件の被告人、この社会には、誰からも見放されている人がいる。そんなたったひとりの人を救うために、法は他のすべての人々に、法に従うことを強制する。法は虐待している親から子供を引き離して保護することができるし、裁判所が無実と判断すれば被告人は罰せられない。法は大きな力を持っている。でも、その大きな力が上手く使えなかったり、それどころか間違って使われたらとても困る。大人が虐待に気づかなかったり、見て見ぬ振りをしてしまったら、子供たちを助けられない。無実の人が死刑にされてしまったり、独裁者を生み出してしまう危険性もある。だから、法曹や公務員は、法の正しい使い方を学ぶ必要がある。
実は、そのためには、法の正しい使い方、とはどうあるべきか、どうしたら正しく使えていると言えるか、を考える必要がある。例えば、叱ると虐待するとの境界線はどこ?親から引き離された子供は誰がどう育てる?死刑は本当に意味がある?独裁者を生み出さないためにどのような仕組みが必要?それが、法学。法学では、法の正しい使い方とはどうあるべきか、をみんなと一緒に考える。ここには正解はない。でも、正解がない問題をみんなで考えるのが、ほんとうの学問だし、そういう学問ができるのが、大学だと思う。

演習テーマ・卒業論文タイトル抜粋(令和4年度)

  • 大学対抗交渉コンペティション(INC)の問題研究
  • 憲法論文作成講座
  • 約120年ぶりに大改正された債権法の判例研究
  • 性犯罪に関する立法論・解釈論上の問題
  • 現代人権論やリベラリズム思想史の法哲学的研究
  • 民法の問題点の検討
  • リバタリアニズムと徴税権
  • 誰のための復興か-東日本大震災から学ぶ復興のこれから